「もっとはっきり話しなさい」
「ちゃんと伝えないと、相手にはわからないよ」
そんなふうに、子どもに言葉づかいを正そうとする場面は、日常の中に多くあります。
ですが、「言葉」を教える前に、私たち大人が一度立ち止まって考えたい問いがあります。
それは、「そもそも言語とは、何のためにあるのか?」ということです。
今回は、子どもの言語発達を支える視点として、「言語の本質」について、心理学・発達科学・教育学の観点からやさしく解説していきます。
言語は「自分を伝えるための道具」ではない
私たちはつい、言葉を「自分の考えを伝えるための道具」と捉えがちです。
もちろんそれも間違いではありません。
しかし、言語の本質はそれだけではありません。
実は、言葉とは、
- 「他者と関係をつくるため」
- 「相手の内面にアクセスするため」
- 「おたがいを理解し合うため」
といった、相互作用の中でこそ意味をもつツールです。
つまり、言葉とは本質的に「関係性の道具」なのです。
子どもが最初に覚えるのは「意味」ではなく「関係性」
1歳前後の子どもが言葉を話し始めるとき、「お茶」「ママ」「ブーブー」などの単語を使いますが、それは単にモノや人を指しているだけではありません。
たとえば、「ママ!」と呼びかけるとき、子どもがしているのは「存在の確認」や「注目して」という関係性の立ち上げです。
つまり、言葉は相手とのやりとりの中で初めて意味を持つのです。
このように、子どもは周囲の人との相互作用の中で「言葉とは心をつなぐもの」という体験を繰り返し、やがて文脈やニュアンス、感情を読み取る力を育てていきます。
言語の本質は「共有」と「調整」にある
言語が果たすもっとも根源的な役割は、「共有」と「調整」です。
- 相手と同じ体験を共有する
- 感情を分かち合う
- 考えの違いを調整する
- 未来の約束を確認する
たとえば、ある子どもが「今日、〇〇ちゃんに嫌なこと言われた」と言ったとします。
このとき大人が「それはあなたが悪いんじゃない?」と返せば、言語のやりとりは成立しても、心の共有は生まれません。
しかし、「そうだったんだね。どんな気持ちになったの?」と返せば、子どもの感情は受け止められ、安心が生まれます。
ここにこそ、「言語の本質」があります。
つまり、言葉とは心の位置をそろえるための仕組みなのです。
正しさよりも「伝わること」が大事
言葉を教えるとき、私たちはつい「文法の正しさ」「語彙の多さ」などに注目しがちです。
もちろんそれも大切な要素です。ですが、もっと大切なのは、「その言葉が誰かに届いているか」です。
- 正しい文でも、相手の気持ちを傷つけることがある
- たどたどしくても、相手に思いが伝わることもある
たとえば、感情が高ぶった子どもが「やだ!もうきらい!」と怒鳴ったとき、それを「言葉づかいが悪い」と切り取るのではなく、「どうしてそんなに怒っているのかな?」とその奥にある思いをくみ取る姿勢が大切です。
言葉の正しさを重視する前に、「言葉の役割とは何か」を子どもとともに体験し直すことが必要なのです。
言語の力を育てるために大人ができること
子どもの「言語の力」を本質的に育てるためには、以下の3つの視点がポイントです。
1. 「意味」より「やりとり」を重視する
「何て言えばいいの?」ではなく、「今、どんな気持ち?」「相手はどう感じたと思う?」と、やりとりを重視した問いかけを増やしてみましょう。
2. 感情を言葉にする手助けをする
子どもが泣いたり怒ったりしたときに、「悲しかったね」「びっくりしたんだよね」と、気持ちにラベルをつけるような声かけを重ねることで、感情と言葉の橋渡しができます。
3. 曖昧さやズレを「ダメ」と思わない
言葉のやりとりは、ときにズレたり、伝わらなかったりします。
そのときに、「そうじゃなくてこう言いなさい」ではなく、「そっか、ちょっとわからなかったから、もう一回教えてくれる?」という修復の対話が、言語の本質を体験させます。
まとめ:言語とは「心と心をつなぐインフラ」である
私たちはつい、言葉を「情報伝達の手段」として捉えがちです。
しかし、言語の本質は「心をつなぐ手段」であり、「関係を育てる仕組み」です。
- 相手の気持ちを思いやる
- 自分の感情を安全に表現する
- 誤解を解き、関係を修復する
それらすべてを可能にするのが「言葉の力」なのです。
子どもにとって、言葉は「考える力」「感じる力」「関係を築く力」を育む、かけがえのない道具。
だからこそ、私たち大人は、「何を話すか」よりも「どんなふうに伝え合うか」を大切にしたいものです。
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