あるお母さんが、小学5年生の息子さんにこう聞きました。
「ねえ、最近ハマってるYouTuber誰なの?」
息子さんはちょっと驚いた顔をして、「え、マジで知りたいの?」と聞き返したそうです。お母さんが「うん、気になって」と答えたら、息子さんは目をキラキラさせながら15分間ノンストップで推しのYouTuberについて語り続けた。
お母さんは言います。「正直、話の半分もわからなかった。でも、あの子があんなに楽しそうに話してくれたのは久しぶりだった」。
この話を聞いて、何かピンとくるものはないでしょうか。
今回のテーマは「親子の世代ギャップ」。ゲーム、SNS、推し活、ネットスラング……子どもの世界が「よくわからない」と感じるのは、ごく自然なことです。でも、その「わからない」をそのままにしておくと、親子の会話はどんどん減っていきます。
逆に「わからないけど、知りたい」と一歩踏み出すだけで、驚くほど会話が変わることがある。今回は、そのための具体的なヒントを一緒に考えていきます。
そもそも、なぜ「わからない」が生まれるのか
「最近の子どもは何を考えているかわからない」。昔から言われ続けてきた言葉ですよね。でも今の時代は、親世代と子ども世代の「育った環境の差」がかつてないほど大きくなっています。
ちょっと比べてみましょう。
- 調べもの:親世代は図書館や百科事典 → 子どもはスマホで検索、AIに質問
- 友だちとの連絡:親世代は家の電話 → 子どもはLINEやオンラインゲームのチャット
- 娯楽:親世代はテレビ番組を家族で → 子どもはYouTubeやTikTokをひとりで
- 憧れの人:親世代はテレビの芸能人 → 子どもはYouTuberやVTuber
生まれたときからインターネットがある世代と、途中から使い始めた世代では、「当たり前」の基準がまるで違います。ここにギャップが生まれるのは当然のことなんですね。
ギャップが広がると、何が起きるか
「わからない」がそのまま放置されると、親子の間にこんなことが起こりがちです。
子どもが何に夢中になっているか見えないから、つい「またゲーム?」「いつまでスマホ見てるの?」と否定的な言葉が増える。すると子どもは「どうせ言ってもわかってもらえない」と感じて、自分の好きなことを話さなくなる。話さなくなるから、ますますわからなくなる。
この悪循環、心当たりがある方もいるのではないでしょうか。
そしてこのギャップは、勉強の場面にも影響します。
たとえば、「なぜ勉強するのか」という問いに対する感覚。親世代は「いい学校に行って、いい会社に入るため」という答えがある程度共有されていましたが、今の子どもたちの中には「YouTuberになりたい」「eスポーツの選手になりたい」「プログラマーになりたい」という夢を持つ子が普通にいます。
親からすると「え、大丈夫なの?」と不安になる。でもそこで「そんなの仕事にならないでしょ」と言ってしまうと、子どもの中で「勉強する意味」がますます見えなくなってしまうんです。
ギャップを埋める3つのステップ
ここからは、世代ギャップを「壁」ではなく「会話のきっかけ」に変えるための具体的な方法を紹介します。
ステップ①「知らない」を正直に言う
いちばん大事で、いちばんシンプルなこと。それは「わからないことをわからないと言う」ことです。
「そのゲーム、どんなところが面白いの?」
「その言葉、お母さん知らないんだけど、どういう意味?」
大人が「教えて」と言ってくれると、子どもはちょっと嬉しくなります。いつもは「教わる側」の自分が、「教える側」になれるからです。
あるお父さんは、息子さんがハマっているゲームのルールを教えてもらい、一緒にプレイしてみたそうです。「全然うまくできなくて、息子に爆笑された。でもその夜、久しぶりに2人で30分以上しゃべった」と話してくれました。
親が「知らない世界」に足を踏み入れる姿を見せることで、子どもは「この人は自分の世界を否定しない」と感じます。その安心感が、会話の扉を開いてくれるんですね。
ステップ②「面白そう!」を先に伝える
子どもが自分の好きなことを話してくれたとき、中身を理解できなくても大丈夫です。まずは「面白そう!」「すごいね!」と反応する。それだけで子どもの表情は変わります。
ここで注意したいのが、「でもね」「だけどさ」をすぐに続けないこと。
「へえ、面白そう!……でも勉強もちゃんとやってね」
この「でも」がつくと、子どもには前半の「面白そう」は聞こえなくなって、「結局また勉強の話か」という印象だけが残ります。
「面白そう!」で止める。アドバイスや注意は、また別のタイミングで。「共感」と「指導」を同じ会話に詰め込まないのがコツです。
ステップ③ 子どもの「好き」を入り口にして世界を広げる
ここがいちばんワクワクするところかもしれません。
子どもが夢中になっているものの中には、実は学びの種がたくさん隠れています。
- ゲームが好き → 「このゲームってどこの国の会社がつくってるんだろう?」(地理・社会への興味)
- 動画編集に興味がある → 「BGMはどうやって選んでるの?」(音楽・著作権の知識)
- 推しのアイドルがいる → 「この人、海外でも人気あるの?」(英語・異文化理解への入り口)
- マンガをよく読む → 「このセリフ、うまいこと言うなあ。どういう意味だと思う?」(国語力・読解力)
親が「それは遊びでしょ」と切り捨てるか、「そこから何が広がるかな?」と一緒に面白がるかで、子どもの学びの可能性はまったく違ってきます。
ある家庭では、恐竜ゲームにハマっていた小学3年生の男の子のために、お母さんが図書館で恐竜の図鑑を借りてきたそうです。ゲームに出てくる恐竜の名前を図鑑で調べるうちに、男の子はカタカナだけでなく、恐竜の体長を表す「メートル」の概念、生きていた時代を示す「年代」への理解まで広げていったとか。
「わかろうとしてくれた」は、ずっと残る
ここまで3つのステップを紹介してきましたが、どれも「子どもの世界を完全に理解する」ことがゴールではありません。
正直なところ、子どものハマっているゲームの面白さが本当にはわからないこともあるし、流行りの曲が全然好きになれないこともあるでしょう。それでいいんです。
大事なのは「わかった」ではなく「わかろうとした」という姿勢のほうです。
冒頭のお母さんの話を思い出してください。推しのYouTuberの話を15分聞いて、「正直、半分もわからなかった」。でも息子さんにとっては、「お母さんが自分の好きなものに興味を持ってくれた」というその一点が、ものすごく嬉しかったはずです。
子どもはいつか大きくなって、親の知らない世界にどんどん出ていきます。そのとき心のどこかに「お父さん、お母さんは自分の好きなものを否定しなかった」「わからないなりに、一緒に楽しもうとしてくれた」という記憶が残っていたら、それはとても心強い安全基地になるのではないでしょうか。
まずは今日、ひとつだけ聞いてみる
世代ギャップを一気に埋めようとする必要はありません。
今日の夕ごはんのとき、あるいはお風呂上がりに、ひとつだけ聞いてみてください。
「ねえ、最近何にハマってるの?」
返ってくる答えが理解できなくても、「へえ、そうなんだ。もうちょっと教えて」と返すだけで十分です。その一往復が、親子の新しい会話の始まりになります。
わからないことは、恥ずかしいことじゃない。むしろ「わからないから聞かせて」と言える大人は、子どもの目にはきっと、とてもかっこよく映っているはずです。
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