「なんであの子はそうするの?」「わたしなら絶対にしないのに」。
そんな言葉が子どもから聞こえてきたら、それは社会性の成長が始まっているサインかもしれません。
子どもたちは成長の過程で、「自分と相手は違う存在である」という事実に何度も直面します。この気づきこそが、思いやり・共感・協調性といった人間関係の土台を築く第一歩です。
今回は、「相手は自分と違う」という視点を、子どもの育ちにどう活かすかについて、心理学的な知見を交えてわかりやすく解説します。
子どもが「他者」を意識し始める時期とは
赤ちゃんのころ、子どもはまだ「自他の区別」がついていません。
自分が泣けば、誰かが来てくれる。自分がほしいと思えば、それは手に入る。そんな全能感の中で生きています。
しかし、2歳〜3歳ごろの「イヤイヤ期」になると、はじめて「自分」と「他人」のちがいに直面します。
それが、「いや!」「ちがう!」という自己主張となって現れるのです。
ここで重要なのは、「他人には他人の考えや思いがある」と気づけるかどうか。
つまり、相手の視点に立ってものごとを考えられる「心の理論(ToM: Theory of Mind)」が育つことが鍵となります。
この力は、言語発達・社会的経験・大人の関わりの中で徐々に育まれていきます。
「ちがい」は間違いではない──家庭や学校で起こるすれ違い
多くの親や教育者は、子どもが集団生活に入ると「みんなと仲良くしてほしい」と願います。
けれど、実際にはこんな場面がよく見られます。
- 友達の言い方がきついと感じて泣いてしまう子
- 自分の意見を否定されたと感じて怒る子
- 相手の意図を読み違えて、距離を置かれてしまう子
これらはすべて、「相手は自分とは違う考え方をしている」という事実をうまく理解できていないことに起因しています。
つまり、「ちがい=拒絶」と捉えてしまっているのです。
私たち大人でも、「なんでそんなこと言うの?」「どうして理解してくれないの?」と思うことがあります。子どもであればなおさら、相手の意図や背景に思いをはせる余裕はまだ育っていないのです。
「ちがい」に気づき、「ちがい」を認める力を育てるには?
では、子どもが「自分と他人はちがう」という認識を肯定的に持てるようにするには、どうしたらよいのでしょうか?
ポイントは3つあります。
1. 「ちがって当たり前」という視点を大人が示す
たとえば…
- 「○○さんはそう思ったんだね。あなたとはちがう考えだけど、それも大切な意見だね」
- 「あの子はあの子のやり方があるんだよ。自分のやり方と比べてみるとおもしろいね」
といった声かけは、「ちがい」を否定ではなく、学びや発見としてとらえる態度を育てます。
大人自身が、「あの人の考えは変だ」ではなく、「そういう考え方もあるんだね」と言える姿勢を見せることが、子どもの手本になります。
2. 「自分とはちがう視点」を体験できる遊びや活動を取り入れる
たとえば…
- ごっこ遊びやロールプレイを通じて、他者の立場に立ってみる
- 絵本や物語で登場人物の気持ちを想像する
- グループ活動で意見交換をし、それぞれの違いをまとめる
こうした活動は、自然に相手の視点に立つ練習になります。
特に、「あの子はなぜこう言ったのかな?」「自分ならどう思う?」と投げかける対話が効果的です。
3. 「違い」によるぶつかりを解決する力を支える
実際に友達と衝突したとき、「あなたが悪い」と決めつけるのではなく、それぞれの感じ方の違いを整理する対話を大切にしましょう。
- 「○○くんは、こうされたと思って嫌だったんだね」
- 「あなたはそういうつもりじゃなかったんだよね。伝え方を変えるとどうなるかな?」
このように、大人が通訳者のような立場で介入すると、子どもは「ちがってもわかりあえる」経験を積むことができます。
他者理解が、子どもの「自信」と「優しさ」を育てる
「ちがうからイヤ」「ちがうからわからない」ではなく、
「ちがうからおもしろい」「ちがうけど大丈夫」と思えるようになったとき、子どもは一回り成長します。
他者を理解することは、単なるマナーやルールの習得ではありません。
それは、自分の内面を豊かにし、人とつながる力を高める学びなのです。
他人を知ることは、同時に自分を知ること。
その繰り返しの中で、子どもたちは「自分も大切、相手も大切」と思えるようになっていきます。
まとめ:違いを知ることは、心の栄養になる
「相手は自分とは違う」──この当たり前のようで難しい事実を、どう伝えるか。
それが、教育や子育ての大きなテーマのひとつです。
「あなたとわたしはちがう」ことを前提にしたコミュニケーションが、子どもの未来の人間関係を大きく左右します。
だからこそ、大人の役割は、「同じであること」ではなく「ちがっていても、つながりあえること」を教えること。
子どもにとってその気づきは、人生を生きる力の土台となるのです。
↓下記の関連カテゴリーもチェックしてみましょう。
↓下記の外部サイトもチェックしてみましょう。
すくすく子育て(NHK 教育情報サイト)を見る