私たちは日々の子育てや教育支援のなかで、子どもがうまくいっているときの姿を喜び、誇りに思います。けれど本当に大切なのは、うまくいかないときに、どんなふうにふるまえるかではないでしょうか。
「良くないときにこそ人間性が出る」。
この言葉は、大人だけでなく子どもにも深く関係しています。
学習につまずいたとき、友達との関係に悩んだとき、失敗を責められたとき…。
そんな“しんどい場面”でのふるまいこそが、その子の本質であり、育てていくべき人間力なのです。
本記事では、教育・心理・発達支援の視点から、子どもにとって「良くないときこそ大切にすべき理由」と、「そのとき大人にできる関わり」について掘り下げます。
なぜ“良くないとき”に人間性が表れるのか?
誰しも、調子の良いときは寛容で優しく、明るい表情を見せられるものです。ですが、不安や怒り、孤独感など負の感情に直面したときには、理性や判断力が試されます。
子どもであってもそれは同じです。
たとえば次のような行動に注目すると、その子の“素の姿”が垣間見えます。
- 失敗を他人のせいにしてしまうか、自分で受け止められるか
- 誰かに嫉妬したときに、悪口を言うか、自分の気持ちを整えようとするか
- やる気が出ないときに、他者にあたるか、自分なりに立て直そうとするか
こうした行動には、その子の感情コントロール力・共感性・自尊感情・内発的動機づけといった「非認知能力」の育ちが強く関係しています。
非認知能力は、数値では測れませんが、人生の安定や幸福感に深くつながるといわれており、まさに「人間性の土台」です。
「困難な場面」は、非認知能力を育てるチャンス
多くの保護者や教師は、子どもがつらそうにしていると「早く解決してあげたい」と思うものです。もちろんその優しさは大切です。
ですが、すぐに取り除いてしまっては、人として成長する機会を失わせてしまうこともあります。
困難に出会ったときこそ、以下のような力を育むことができるのです。
- 自己認識力:「今、自分はどう感じているんだろう?」と気づける力
- 回復力(レジリエンス):落ち込んでも立ち直る力
- 自己調整力:気持ちを自分で整える力
- 倫理観・思いやり:自分も他者も大切にする姿勢
そしてこれらは、一度の成功体験では身につきません。
「悔しい・悲しい・苦しい」といった感情を、自分で消化しながら乗り越えた経験によって、少しずつ育っていくのです。
大人が「良くないとき」に見せる姿も、子どもの人間性を育てる
忘れてはならないのが、子どもは大人の背中を見て育つということです。
つまり、保護者や教師が「うまくいかないとき」「失敗したとき」にどうふるまうかこそが、最大の教育です。
- イライラして怒鳴ってしまったとき、「ごめんね」と素直に謝る
- 予定が崩れたとき、「どうしたらうまくいくか一緒に考えよう」と柔軟に対応する
- 体調が悪いとき、「今日はお手伝いお願いしてもいい?」と助けを求める
こうした姿勢を見せることで、子どもは「人は完璧じゃないけど、工夫しながら乗り越えようとすればいいんだ」と学びます。
大人が感情に流されすぎず、感情と上手につき合う姿勢を見せることが、子どもにとって最良のモデルになります。
子どもが苦しいとき、どんな言葉をかけるべきか?
子どもが落ち込んでいるとき、私たちは何を伝えるべきでしょうか。
正解は一つではありませんが、以下のような関わりが子どもの人間性を支える土台になります。
・「つらかったね」とまず気持ちを受け止める
感情が否定されず受け止められた経験が、自己肯定感につながります。
・「その気持ち、わかるよ」と共感を示す
共感は、人とつながる力を育てる第一歩です。
・「どうしたらよかったと思う?」と問いかける
自分で考える機会を与えることで、問題解決力や自己内省力が育ちます。
・「また一歩進めるよ」と回復への視点を伝える
未来志向の声かけが、レジリエンスの種になります。
こうした声かけは、教育現場でもカウンセリングでも、非常に高い効果が報告されています。
子どもにとっては、たとえ内容が難しくても、「自分を信じてくれている」「一緒にいてくれる」という感覚こそが大きな支えになるのです。
まとめ:失敗も怒りも“育ち”の材料にできる
「良くないときにこそ人間性が出る」──それは単なる人生訓ではなく、子どもの成長に欠かせない本質的な視点です。
失敗したからこそ見える課題。
うまくいかないときに育つ力。
落ち込んだときにかけられた言葉が、のちの人生を支える財産になることもあります。
私たち大人にできることは、良くないときにも「育ちのチャンス」があると信じて、関わり続けることです。
あなたのお子さん、あるいは教室の子どもたちが、今日もしんどさを抱えているなら――。
どうか、そこに“人間性を育てる芽”があることを忘れないでください。
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