ある日の夕食どき、5歳の男の子がお母さんにこう聞きました。
「ねえ、どうしてカレーは茶色いの?」
お母さんは一瞬キョトンとして、それから「うーん、なんでだろうね?」と返しました。すると男の子はスプーンを止めて、真剣な顔で「たまねぎが焦げたから?」「スパイスの色かな?」と次々に”仮説”を並べ始めたそうです。
たったこれだけのやりとり。でも実は、この何気ない”問いかけ”と”考えるやりとり”の中に、子どもの思考力をぐっと伸ばすカギが隠れています。
今回のテーマは「問答あそび」。特別な教材もアプリも必要ありません。親子の会話をほんの少し変えるだけで、子どもの頭の中がどんどん動き出す――そんなお話です。
そもそも「問答あそび」って何?
堅苦しく聞こえるかもしれませんが、要は「クイズごっこ」や「なぞなぞ大会」、あるいは「なんでだろう?を一緒に考えるおしゃべり」のこと。親が問題を出して子どもが答える形もあれば、子どもが出題者になることもあります。
ここでひとつ、問いかけです。
「ドリルを10ページ解くのと、親子で10分おしゃべりするの、どちらが”考える力”を育てると思いますか?」
もちろん、ドリルにはドリルの良さがあります。けれど、近年の教育研究では「対話を通じた学び」が子どもの思考力に与える影響がとても大きいことがわかってきました。2020年度から始まった学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」がキーワードになっていますよね。問答あそびは、まさにその”対話的な学び”を家庭で気軽に実践できる方法なんです。
問答あそびで子どもの中に起きること
では、問いかけに答えようとするとき、子どもの頭の中では何が起きているのでしょうか。ちょっとのぞいてみましょう。
1. 頭の中で「探しもの」が始まる
「日本で一番長い川は?」と聞かれた子どもは、記憶の引き出しをガサゴソあちこち開けます。社会の授業で聞いたかな、テレビで見たかな、絵本に載ってたかな……。この「思い出そうとする作業」そのものが、記憶を強くする効果を持っています。
2. 「つなげる力」が動き出す
「りんごは果物、じゃがいもは野菜。じゃあトマトはどっち?」と聞かれると、子どもは「赤いから果物?」「でもサラダに入ってるし……」と、知っていることをつなげて考えます。バラバラだった知識が線でつながる瞬間です。
3. 言葉にする練習になる
頭の中にぼんやり浮かんだ答えを「こうだと思う、なぜなら……」と口に出すのは、大人が思う以上に難しい作業です。でも問答あそびなら、正解・不正解のプレッシャーが少ないぶん、子どもは安心して言葉を絞り出すことができます。
4. 「もっと知りたい!」のスイッチが入る
答えがわかったときの「やった!」という快感と、わからなかったときの「くやしい!」という気持ち。このどちらも、子どもの好奇心に火をつけます。ゲーム感覚だからこそ、「勉強しなさい」と言われるより何倍も自分から動きたくなるんですね。
年齢別・今日から使える問答あそびアイデア
「やってみたいけど、何から始めればいいの?」という方のために、年齢ごとのアイデアを紹介します。あくまで目安なので、お子さんの様子を見ながらアレンジしてみてください。
【3〜5歳】五感まるごと使う「からだで感じるクイズ」
この時期は、見て・聞いて・触って感じることが学びの入り口です。
- 音あてゲーム:目をつぶって「これ、何の音?」と聞いてみます。水道の水、せんべいをかじる音、猫の鳴き声……。正解したときの子どもの得意げな顔、想像できますよね。
- 色さがし:「この部屋の中で、青いものをぜんぶ見つけて!」とお題を出すだけ。夢中で走り回りながら、観察力がどんどん育っていきます。
- 触ってあてっこ:袋の中にフルーツや野菜を入れて、触るだけで何か当てる遊び。「つるつるしてる……丸い……みかん!」と、手の感覚と言葉をつなげる練習にもなります。
ちなみに、この年齢では「正解すること」よりも「やりとりを楽しむこと」のほうがずっと大切です。間違えたら「おしい!」と盛り上げるくらいがちょうどいいですね。
【6〜9歳】あれこれ推理する「頭やわらかゲーム」
小学生になると、少し複雑なルールも理解できるようになります。
- ひねりしりとり:ふつうのしりとりに「食べものだけ」「3文字だけ」と条件をつけると、一気に難易度が上がります。ある家庭では「世界の国の名前しりとり」をやったら、子どもが自分から地図帳を開いて調べ始めたそうです。
- なぞなぞ合戦:出題する側になると、「どう言えば相手が迷うかな?」と考えるので、相手の立場で考える力も育ちます。
- おうち宝さがし:「冷たくて白いものの近くにあるよ」(答え:冷蔵庫のそば)のように、ヒントを出して宝物を探す遊び。ヒントを考える役を子どもにやらせると、さらに思考力がアップします。
このくらいの年齢では「答えがひとつじゃない問い」を投げてみるのもおすすめです。たとえば「もし空を飛べたら何をする?」という質問に正解はありません。自由に発想する楽しさを味わえると、「考えるって面白い」と感じてくれます。
【10〜12歳】知識が広がる「探究クイズ」
高学年になると、世の中への興味がぐっと広がる時期です。
- ニュースdeクイズ:夕食のときにその日のニュースからクイズを出し合う家庭があります。「今日、ある国の大統領が日本に来たんだって。どこの国だと思う?」。知らなくても「ヨーロッパかな?」「アジアじゃない?」と推理する過程に意味があります。
- もしも歴史クイズ:「もし織田信長がスマホを持っていたら、何に使ったと思う?」のように、歴史上の人物を身近に引き寄せると、教科書の知識が一気に生き生きしてきます。
- 台所の科学クイズ:「卵を酢につけると何が起きる?」と聞いてから実際にやってみる。予想と結果を比べる体験は、理科の実験そのものです。
もっと楽しくなる3つの工夫
問答あそびを「その場かぎりの暇つぶし」で終わらせず、子どもの力としてしっかり根づかせるには、ちょっとしたコツがあります。
工夫① 「いい線いってる!」を口ぐせにする
間違えたとき、「違うよ」のひと言で会話が終わってしまうのはもったいないですよね。「お、いい線いってるね。もうちょっとヒント出そうか?」と返すだけで、子どもの「もう少し考えてみよう」という気持ちが続きます。
東京都内のある学童保育では、スタッフ全員がこの声かけを実践したところ、3か月後に子どもたちの発言量が約1.5倍に増えたというエピソードもあるほどです。
工夫② スキマ時間にさらっと
「さあ、今から問答あそびの時間です!」と構えると、親も子も疲れてしまいます。車での移動中、お風呂の中、スーパーの買い物中。日常のスキマにぽんと一問投げるくらいがちょうどいいんです。
たとえば買い物中に「このキャベツ、1玉で何枚くらい葉っぱがあると思う?」と聞いてみる。帰ってから実際に数えてみると、ちょっとした自由研究にもなります。
工夫③ 子どもを「出題者」にする
答える側だけでなく、問題を作る側になると、頭の使い方がまるで変わります。「相手がわからないくらい難しくて、でもヒントで解けるくらいのちょうどいい問題」を考えるのは、大人でもなかなか大変。でも子どもは「お父さんを困らせたい!」という一心で、驚くほど工夫を凝らした問題を作ってきます。
大切にしたいのは「正解」じゃなく「やりとり」
最後に、ひとつだけ。
問答あそびで一番大事なのは、正しい答えにたどり着くことではありません。「なんでだろう?」「こうかもしれないよ」「あ、そういうことか!」という、その一往復一往復のやりとりそのものが、子どもの頭と心を育てています。
冒頭のカレーの話を覚えていますか?あの男の子のお母さんは、「正解はスパイスの色だよ」と教える代わりに、「じゃあ明日、カレー粉をお湯に溶かして確かめてみようか」と言ったそうです。翌日、ふたりで台所に立ってカレー粉を溶かしながら、また新しい「なんで?」が生まれたんだとか。
問答あそびに特別な道具はいりません。必要なのは、子どもの「なんで?」を一緒に楽しむ気持ちだけ。今日の夕ごはんのとき、ひとつだけ質問を投げかけてみませんか?きっと思いがけない答えが返ってきて、食卓がにぎやかになるはずです。
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