ひとつ、想像してみてください。
あなたのお子さんが社会に出るのは、10年後でしょうか。15年後でしょうか。そのとき、どんな仕事があって、どんなふうに働いているか――正直、はっきり思い描ける人はほとんどいないですよね。
それもそのはずです。ここ数年だけ振り返っても、AIが文章を書き、絵を描き、プログラムまで組むようになりました。コロナ禍では「学校に行けない」という想定外の事態が突然やってきて、オンライン授業があっという間に広まりました。
つまり、今の子どもたちは「何が起きるか誰にもわからない時代」を生きていくことになります。
そんな時代に、テストで100点を取る力だけで大丈夫なのか。……ちょっと心もとない気がしますよね。
では、どんな力があれば「正解のない問い」にも立ち向かえる子に育つのか。今回は、ご家庭でできる具体的な工夫を5つのヒントにまとめてお伝えします。
まず知っておきたい、これからの子どもに必要な「3つの力」
具体的な方法の前に、土台となる考え方を整理しておきますね。文部科学省が学習指導要領で掲げている方向性とも重なりますが、難しい言葉は使わずにいきます。
1. 「変わっても大丈夫」と思える力
たとえば、お子さんがクラス替えで仲の良い友だちと離れたとき。最初は不安でも、「新しい友だちができるかも」と気持ちを切り替えられる子は、その後の学校生活がぐんとラクになります。これは大人になっても同じで、転職や引っ越し、仕事のやり方がガラッと変わったとき、「まあ、なんとかなるかな」と柔軟に構えられる力がとても大きな武器になります。
2. 「どうすればいいか」を自分で考える力
算数の文章題を解くときの頭の使い方、と言えばわかりやすいかもしれません。「何を聞かれているのか」をつかみ、「手がかりはどこにあるか」を探し、「どの順番で考えればいいか」を組み立てる。こうした”考え方の筋道を立てる力”は、勉強だけでなく友だちとのトラブルや将来の仕事でもそのまま使えます。
3. 人と関わる力
どれだけ優秀なアイデアがあっても、ひとりでは実現できないことがたくさんあります。自分の考えを伝え、相手の話に耳を傾け、一緒にゴールに向かう。いわば「チームで動ける力」は、これからますます大切になっていきます。
家庭でできる5つのヒント
では、これらの力をどうやって育てればいいのか。特別なことは必要ありません。毎日の暮らしの中で少しだけ意識を変えるだけで、子どもの「考える回路」は着実に太くなっていきます。
ヒント① 「どっちがいい?」で選ぶ練習をたくさん積む
朝ごはんにパンとごはん、どっちがいい? 今日の公園、ブランコから行く? すべり台から行く?
こんな小さな選択を日々の中でたくさん手渡してあげると、子どもは「自分で決めた」という感覚を積み重ねていきます。この「自分で選んだ」という経験の積み重ねが、やがて「自分で考えて動ける力」の土台になるんですね。
ここでよくあるのが、「子どもが選んだものが親の想定と違う」というケース。たとえば真冬に半袖を選んだら、「寒いからダメ」と言いたくなりますよね。でも一枚上着を持たせて、寒さを体感させてみるのもひとつの手です。「やっぱり寒かった!」という経験が、次の判断に生きてきます。
ヒント② 失敗を「おもしろエピソード」に変換する
ある家庭で聞いた話です。小学2年生の女の子が、自由研究でアサガオの観察をしていました。ところが水をやりすぎて根腐れしてしまい、アサガオは枯れてしまった。泣きそうになっている娘さんにお父さんが言ったのは、「これ、”水のやりすぎで枯れた観察日記”として出したらめちゃくちゃ面白いんじゃない?」でした。
結果、先生から「失敗から学んだことがよく書けている」と褒められたそうです。
子どもが何かに失敗したとき、その過程を一緒に振り返って「ここまではうまくいってたよね」と認めてあげること。それだけで、失敗は「もうやりたくない」から「次はこうしてみよう」に変わります。
結果の良し悪しではなく、「やってみたこと」「考えたこと」にスポットを当てるイメージですね。
ヒント③ 「知らない世界」を親子で一緒にのぞく
多様な価値観に触れるというと大げさに聞こえますが、やることはとてもシンプルです。
- 図書館で「いつもは選ばない棚」の本を1冊借りてみる
- 外国の料理を一緒に作ってみる(ベトナムの生春巻き、インドのナンなど、意外と簡単なものもあります)
- 地域のお祭りやイベントに足を運んで、知らない人と話してみる
あるお母さんが「うちの子は虫が大好きで、休日は昆虫館ばかり行っていたけれど、たまたま隣の美術館に寄ったら”虫をモチーフにした絵”にすごく食いついた」と話してくれたことがあります。好きなものの”隣”にある世界へ連れ出してあげると、子どもの興味の幅は自然に広がっていきます。
ヒント④ 「今日どうだった?」の聞き方をちょっと変える
親子の会話は、子どものコミュニケーション力を育てる一番の練習場です。ただ、「今日どうだった?」と聞くと、返ってくるのはたいてい「ふつう」の一言。
そこで質問を少し具体的にしてみます。
- 「今日いちばん笑ったのはどんなとき?」
- 「給食で何がおいしかった?」
- 「休み時間、何して遊んだ?」
答えやすい質問から始めると、子どもは「あのね……」と話し始めてくれます。そのとき大事なのは、スマホを置いて、目を見て「うんうん」と聞くこと。たった5分でも「ちゃんと聞いてもらえた」という実感は、子どもにとって大きな安心感になります。
そしてもうひとつ。子どもの話を聞いた後に「お母さん(お父さん)も今日こんなことがあってね」と自分の話をしてみてください。大人も失敗したり迷ったりしている姿を見せることで、子どもは「完璧じゃなくていいんだ」と感じられます。
ヒント⑤ 情報の「ホント?ウソ?」を一緒に確かめる
小学校高学年になると、YouTubeやSNSから膨大な情報を浴びる毎日になります。そこで気をつけたいのが、「見たものをそのまま信じてしまうこと」。
とはいえ、「情報を見極める力をつけなさい」と言っても、子どもにはピンときません。
もっと手軽な方法があります。子どもが「ねえ、○○って本当?」と聞いてきたとき、一緒にスマホやパソコンで調べてみるだけでいいんです。
「この記事は誰が書いたんだろう?」「他のサイトにも同じことが書いてあるかな?」と声に出しながら調べると、自然と「ひとつの情報だけで決めつけない」クセがつきます。
ある家庭では、夕食のときに「今日のびっくりニュース」を家族で一つずつ持ち寄るルールを作ったそうです。「それ本当?」「どこで見たの?」というやりとりが自然に生まれて、家族の会話も増えたとか。
学校と家庭、それぞれの役割
ここまで家庭でできることを中心にお話ししてきましたが、もちろん学校の役割も大きいです。
2020年度から小学校で全面実施された学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」が大きな柱になっています。探究学習やグループワーク、タブレットを使った個別学習など、授業のスタイルも変わりつつあります。
ただ、学校だけ、家庭だけで完結するものでもありません。学校で「調べ学習」に取り組んだ日に、「何を調べたの?」と家庭で話題にするだけで、学びが一気に深まります。学校と家庭が”地続き”になっていることが、子どもにとっては一番の環境なのかもしれません。
「正解がない問い」を楽しめる子に
ここまで読んで、「うちは全然できていない……」と不安になった方もいるかもしれません。
でも、大丈夫です。今日から全部やる必要はまったくありません。5つのヒントのうち、「これならできそうかな」と思えるものをひとつだけ試してみてください。
今夜の食卓で「今日いちばんびっくりしたこと、何だった?」と聞いてみる。それだけで、もう最初の一歩は踏み出しています。
「正解がない問い」を怖がるのではなく、「正解がないから面白いんだよね」と親子で笑い合える。そんな日常の積み重ねが、きっとお子さんの未来を支える土台になっていくのだと思います。
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